石器時代から1万年ぶりに、この惑星上の富が人々に平等に行き渡る時代が来る


企業は順調に利益を上げているけど、儲けた金は、社員に還元しない。
儲けは、配当や株価上昇を通じて、株主に配られている.....かのように見えるが、
それはウソだ。


もしそれがホントウなら、普通の人でも、貯金して株を買って、株主になれば、
搾取される側から搾取する側になれるはず。


しかし、現実には、そんなことは無い。


なぜなら、現在の企業の株価は、その企業の将来の儲けまで織り込まれて値付けされているからだ。
かなり企業が儲けているのに、株価が下がることなんて、全然珍しくない。
もっと儲けるだろう、という期待で株価が膨らんでいるのに、期待よりも儲けが少なかったときなんかがそうなる。


むしろ、知識に乏しい普通の人が、株を買うと、儲けるどころか、損をすることも多い。
長期保有すれば儲け続けられるということも無い。


じゃあ、政府が規制をかけて、企業が儲けた金を、社員に還元しなければならないように
してしまえばよい?
そうすれば、少なくとも、普通の人の暮らしは楽になる?


そんなことは無い。
そんなことをすれば、企業は、儲けを社員に還元しなくてもよい国へ拠点を移していくだけだ。
その方が儲かるから。
そりゃ、ホワイトカラーエグゼンプションのない国より、ある国で人を雇った方が、
利益を上げられると考える企業は多いでしょ。


じゃあ、普通の人は、貯金して、油田や天然ガス田などの、天然資源を買えばよい?
今後、天然資源の価値は、ますます上昇するのだし。
普通の人でも、油田もガス田も、買おうと思えば買えるし。
油田や天然ガス田を所有している会社の株を買えば、実質的に油田や天然ガス田を所有しているのと同じことだし。
そうすれば、自分の資産は順調に増ていくはずだし、生活も安泰?


でも、それも、無駄。
なぜなら、将来、その油田が石油を産出し、売却してあげる利益まで、すでに現在の株価に織り込まれてしまっているから。
優良企業の株を買うのと同じ。あまり期待できない。


じゃあ、スキルアップして、おいしい仕事をゲットすれば良い?
それこそ、幻想。


限られた天然資源の量に対して、
相対的に労働力が供給過剰なのは、世界中どこでも一緒。
インドや中国が、日本人並みに良質な労働力を大量供給してくれたから。


そして、企業の株を買っても、油田を所有しても、政府に圧力をかけても、
豊かになれないのは、世界中の労働者は、誰でも、同じ条件なんですよ。


ひしめきあう世界中の労働者が、自分の生活を豊かにするためにできる、唯一の方法は、
世界中どこでも、スキルアップスキルアップスキルアップ


だから、今、この瞬間も、世界中の何億という労働者がスキルアップしてるんですよ。
日本の総労働人口の何十倍もの巨大な人口が、もーれつな勢いで、スキルアップしているの。
だって、そこしか出口がないんだもん。


だから、スキルアップした労働力も、すぐに供給過剰になるんですよ。


供給過剰にならないのは、普通の人では、到達できないほどのハイレベルなスキルをゲットした人だけ。
ようは、普通ではない人たち。


スキルアップした労働力が供給過剰になったとき、普通にスキルのある普通の人たちはどうなるのか?
需要と供給の法則に従って、供給過剰のものは、供給が十分に減少するまで、値段が下がっていく。


自動車が供給過剰の場合、自動車の値段がどんどん下がっていき、
やがて採算ラインを下回り、赤字になるから、それ以上自動車は生産されなくなり、
自動車の供給は減り、すると値段は下げ止まる。


労働力が供給過剰の場合、労働力の値段、すなわち賃金がどんどん下がっていき、
やがて、生活できなくなり、家計は赤字になる。
つまり、どんなに極貧の暮らしをしても、採算が合わず、貯金を取り崩して生活するようになる。


ただし、労働者は、赤字でも、労働力の供給をやめるわけには行かない。
労働力の供給をやめれば、収入が無くなり、もっと急速に貯金が消えていくからだ。


しかし、日本よりも生活コストが低い中国やインドでは、労働者はより少ない賃金しか受け取らなくても、家計は黒字になる。
貯金は消えるどころか、増えていく。


ただし、発展途上国の労働者は、先進国の労働者ほどには、賃金は上がらない。
なぜなら、労働力は、全世界で供給過剰であり、
全世界の労働者は、限られた職を奪い合っているから、途上国の労働者は、
労働力をダンピングし、価格競争することで、職をゲットしなければならないからだ。


しかし、途上国の労働者は、生活コストが安いため、家計を黒字にしたまま、
ダンピング戦術により、椅子取りゲームで勝ち進むことができる。
そうして、椅子取りゲームに勝ちすすむ発展途上国人は、ますます豊かになっていく。
これは、先進国の労働者と途上国の労働者の賃金と生活コストの両方が同じくらいに
なるまで続く。


これがあるから、しばらくの間は、国家は、資本主義の暴走を止められない。
つまり、国家間の利害の対立が、資本主義の暴走を許している。
資本主義の暴走を止めたいのは、あくまで、先進国であって、
インドや中国にとっては、資本主義が暴走してくれる方が、むしろ、国益にかなうのである。


利害が一致しないのは、国家間のことだけではない。
先進国内でも、途上国の安い労働力のおかげで恩恵を受ける国民と、
被害を被る国民が分裂していて、なかなか世論がまとまらず、
また、他の複雑な貿易関係のとの絡みもあり、
途上国の安い労働力に対抗するための鎖国的な政策が、
なかなか効果的に打ち出せない。


また、もちろん、無限に自由に労働力が世界中で流通する、ということは無い。
実際に流通できる労働力は、一部に留まる。


どの国も、経済全体における国際貿易の量というのは、それほど大きくない。
ほとんどの商品とサービスは、国内で生産され、国内で消費される。
また、どの企業も、全ての拠点をインドや中国へ移せるわけじゃない。
実際には、移せる種類のビジネスと、移せないビジネスとがある。


労働力も同じで、なんでもかんでもインドや中国の労働者を使えるわけじゃない。
しかし、そこに価格差がある限り、企業は可能な限り拠点をインドや中国へ
移そうと、延々と企業努力を続ける。
インターネットなどのイノベーションが、ますますそれを後押しする。


そうすると、先進国の労働者は、インドに仕事を取られまいとして、価格を下げざるを
得ない、という圧力が働く。
たとえば、「いまの賃金では採算がとれないから、工場をインドに移すしかない」と言われた
アメリカの労働者は、企業側の賃下げ要求を飲むしか無くなる。
ソフト開発も同じだ。インドのソフト開発会社とあい見積もりを取られたアメリカのソフト会社
やはり、より安い賃金でソフト開発するしかなくなる。
そして、そのより安い賃金で開発されたソフトを使ってビジネスを展開するアメリカの企業に
対抗するために、日本の企業も、同じくらい安いコストで、ソフト開発を発注しなければ
ならなくなる。そうすると、日本のプログラマーの賃金も、下がっていく。
経理処理も同じ。アメリカの企業が、インドの会社に経理処理をアウトソースして、
安く上げ、価格競争力を持てば、日本やヨーロッパの企業も、同じくらい低コストで、
経理処理ができないと、対抗できなくなり、経理の人件費も下げなきゃならなくなる。
インドでは、秘書サービスもオンラインでやっている。
驚くほど多岐にわたる職種がインドにアウトソースされている。
多様な産業が、中国に工場を移している。
そして、インドや中国に職を奪われた人々は、残された国内の職に殺到し、
職を求める競争が激化する。
限られた国内の職に、より高いスキルの人が、より安い賃金で、より激しく働くようになる。
こうして、玉突き状に、労働環境が悪化していく。


結局、直接、世界中を流通する労働力のパーセンテージ自体は、それほど多くないのだけれども、
インドや中国の労働者に、職を奪われまいと、対抗する力が働くため、
それに引きずられて、先進国の労働者全体の賃金に、強い下降圧力がかかる。


こうして、中国やインドの労働者の賃金を前提に、世界中の商品の値段が決まるようになっていく。
つまり、ライバル企業との価格競争があるため、
労働者のスキルレベルが同じなら、中国やインドの労働者より高い賃金を労働者に支払うと、
企業は採算がとれなくなる。


やがて、急速に低下していく賃金と悪化する労働環境のため、
日本人の多くは、資本主義や、自由市場経済そのものに、不信感を抱き始め、
ついには、政権交代が起き、日本に左派政権が誕生するかもしれない。


ただし、この傾向は、日本だけの話ではなく、世界中の多くの先進国が、
程度の差はあれ、政権が左傾化し、同じような状況になるかもしれない。
高い生活コストという弱点を抱えるのは、先進国はどこでも似たようなものだから。


もし、日本が左派政権となったら、政府は悲鳴を上げて抵抗する企業の反対を押し切り、
企業の利益を労働者に還元するための法律をつぎつぎに設ける。
これによって、一時的に、労働者の賃金は上昇しはじめる。
すると同時に、企業の日本の拠点は赤字になっていき、それを海外拠点の黒字で補填する形となる。


もちろん、企業は、急速に海外拠点を増強し、日本の拠点を縮小していく。
それにより、日本人は、次々に職を失い、失業者が街にあふれるようになる。


政府の税収も大幅に減少し、国家の借金は膨らんでいく。
日本の国債の信用は低下し、だれも買いたがらなくなっていく。
仕方がないので、高い利率で国債を発行する。
すると、利子の返済が負担となり、ますます国の借金が膨らんでいく。


破綻を回避するため、仕方なく、政府は、なりふり構わず支出という支出をカットしていく。
公共投資はもちろん、福祉も、医療も、教育費も、軒並み削っていく。
水道代も市営バスも、どんどん値上げしていく。


しかし、増え続ける失業問題の解決はできず、
とうとう左派政権は、経済原理を無視した政策が無謀だと理解し、
企業の規制を、世界水準並みに戻して行く。


ただ、そこまで来ると、もう、いかなる手段を持ってしても、
現在の生活水準を維持することはできないと、ようやく人々は諦め、
日本人の生活水準は、インドや中国の労働者なみに落ちていく。
公共サービスも含め、あらゆるサービスの質が落ちるところまで落ちていく。


これにより、日本の労働者は、競争力を、回復する。
単に、日本人の生活コストが下がるだけでなく、豊かになった発展途上国人の生活コストも上昇し、
生活コストがほとんど同じになってくるし。
生活コストが同じであれば、インドや中国の労働者と同じ条件だから。


しかし、世界中で労働力が供給過剰である、という状況は変わらず、
価格競争により、今度は、発展途上国を含め、全世界の労働者の賃金がどこまでもどこまでも下がっていく


そうすると、今まで、生活コストの高い先進国の労働者から職を奪うことで、
漁夫の利を得ていた、中国やインドの労働者も、他人事では無くなってくる。
そうして、世界中の労働者が、同じ問題に苦しむようになる。


すでに、地球規模のインターネット網という、世界中の労働者たちが
密に連絡を取り合う物理的なインフラはあるのだが、
今までは政治的利害が一致しないため、分断されていた
しかし、ようやく、世界中の労働者が、完全に問題を共有し、利害が一致するので、
連携・組織化は、一気に進み、惑星規模での、巨大な圧力団体が形成される。


この圧力団体の脅しに、世界中の政治家が屈する形で、
国連で全世界的な労働基準法が作られることになる。
すなわち、惑星規模で、最低賃金が決められるようになる。
また、最低賃金だけでなく、ホワイトカラーエグゼンプションの問題や、
産休制度、育児休暇、ワークシェアリングなど、労働者の権利を守るための法律が、
地球規模でどんどん充実していく。
なぜなら、世界中の国の、世界中の労働者の利害が、ようやく一致するから。

これにより、労働者の賃金は、どんどん上昇していく。
相対的に、石油や天然ガスや各種の知財や独占技術の価値は、
急速に低下して行く。


こうして、石器時代から、およそ1万年ぶりに、この惑星上の富は、人々に平等に行き渡るようになる。


結局、何が起こるのかというと、地球規模での、労働者の談合が起きるわけ。
独占やカルテルと言い換えてもいい。


商品が供給過剰であり、かつ、労働力のように生産調整が不可能なもののとき、価格は無限に下落する。
そして、無限の暴落を止めるためには、市場の独占によって価格管理を行うしかない。
すなわち、利害の一致した、全世界的な労働者が、一つの組織体として団結し、
そのたった一つの組織が、世界の労働市場を牛耳り、唯一の商品供給源となることで、最終的には勝利する。
独占企業のうまみを得るわけ。


結局のところ、石油にしろ、特許にしろ、ブランドにしろ、土地にしろ、
ウィンドウズやワードやエクセルのようなデファクトスタンダードにしろ、
結局は、企業の株式や土地の権利書を経由して、全ての富は、個人に所有されている。


そして、富を独占する金持ちの資産を巻き上げ、「普通の生活者」に分配するような
税制を、自由に作れるのだから、ある程度以上の金持ちの、あらゆる資産は、
かなりの部分、巻き上げられることになる。


世界中の労働者の利害が一致したのだから、
国際連合のレベルで、「普通の生活者」が有利になるような税制を、
全ての国で施行できる。
たとえば、相続税キャピタルゲイン課税の累進課税率をはるかに
引き上げて、富を巻き上げ、人々に分配するようにする。


もちろん、普通に頑張ってスキルアップして、普通よりも価値ある労働をした場合、
それに比例して収入は増える。それは、普通の自由競争のレベルだ。
だから、それは、共産主義とは、違って、生産性が落ちるようなことはない。


なんだか、マルクスとかいう髭のオッサンの言っていたことを思い出しますが、
こうして、全人類は、幸せになって、メデタシ、メデタシ、というわけ。


しかし、それは、まだ先の話。


それは、世界中の労働者の利害が一致するまで、起きない事態。


「生活コストの低い労働者が職を奪い、豊かになれる」というルールのゲームを、
生活コストの低いインドや中国の労働者が自発的にやめるわけが無いから。


自分に圧倒的に有利なゲームを自分からやめるほど、中国人もインド人もお人好しじゃない。


じゃあ、日本人がそれに対してとれる対抗策は?


がんばってスキルアップすれば、新しいビジネスやコアコンピタンスを創造すれば
何とかなる、と言う人が多いけれど、
そんなこと、インド人だって、中国人だって、ロシア人だってやってる。


その、イケイケ戦略で、切り抜けられるのは、一部の優秀な人たちだけですよ。


フツーの人も、もちろん、スキルアップも、ビジネス創造も、コアコンピタンスの確立も
もちろん、やらなけりゃならないけど、それだけじゃ乗り切れない。


また、いくら政府に社会保障の充実を求めても、
構造的に財源が確保できないから、あまり期待できない。
つまり、その財源を、企業に増税したり、規制をかけるかたちで確保しようとしても、
それをすると、雇用が海外に流出してしまうので、それができない。
なので、財源確保には、ひたすら個人の金持ちの資産を巻き上げるしか無くなるのだけど、
金持ちも財界人脈を通じて有形無形の抵抗をするだろうから、
累進課税率を今の2倍にするというほどにはならず、
結局、そこの増税をいくらがんばっても、社会保障の財源としてはたかが知れている。


この構造がある限り、いくら社会保障を声高に叫んだって、
どうせ期待するほどのもんは出てこない。
もちろん、こりゃパワーゲームなんだから、とれるかぎりの社会保障をぶんどるために、
ヒステリックにワーキングプア問題を叫ぶのは、とりあえず、やっといた方がいいが、
どうせ、政府側も、無い袖を振れるはずもなく、結局、すごく社会保障が充実するなんて
いうのは、捕らぬ狸のなんとやら。
社会保障の充実をアテにして人生プランをたてるのは無謀だ。


だから、現実的に効果が期待できる施策は、
いますぐ生活コストを下げること。貯金をすること。
貯金が貨幣価値の変動で消滅しないように、ポートフォリオを組んで各国の株や不動産や貨幣に分散させ、防衛的に資産運用すること。
中国人やインド人に負けないくらいには、スキルアップし続けること。


少なくとも、これらを全てしっかりやれば、現在すでに、ある程度の稼ぎのある日本人は、逃げ切れるのではないか。
人生は、それほど長くない。死ぬまでの期間、財政的に持ちこたえれば、それで十分なのだから。


「姫さま、このままでは、エンジンが燃えてしまいます!」
「かまわない。風の谷までもてばいい。」


と言うのを、思い出しました。