最新研究からわかる 学習効率の高め方




本書は、Amazon総合1位(無料)となった科学的学習法の本のWeb版です。
12万部のベストセラーとなった前著と同様、図とイラストを使って分かりやすく解説しています。
英語学習者・教師・受験生・小学生~高校生の親御さんに読んでいただきたいです。

全5巻(派生巻も含めると全8巻)構成で、これは第1巻です。


それでは、さっそく、サイエンス誌に掲載された論文を解説します。
(サイエンス誌は、ネイチャー誌と双璧をなす、世界最高峰の学術誌です)

この論文からは、学習効率に関する重要ポイントをいくつも学べます。

本書は、基本的には中学生でも読めるように書いてあります。
実際、本書をある中学3年生の女の子に読んでいただいたところ、たいへん好評でした。
実際に期末試験の成績も上がり、志望校にも合格し、ご両親も喜んでおられました。


では、以下、論文の解説をどうぞ。





■カーピキー2008実験

たとえば、英語を学習するとき、多くの人は、次の2つをやる。


【勉強】……参考書・文法書・単語集などを読んで理解する。

【テスト】…問題集を解く。

いや、テストも勉強に含まれるだろ。

一般的な言葉の定義だと、そうなる。
ただ、本書では、説明しやすいように、本書独自の用語を使って説明する。
(本書独自の用語は【】でくくってある)


【勉強】と【テスト】を、ひとまとめにして扱う時は、「学習」と表記する。
たとえば、【勉強】を10分、【テスト】を10分やったら、学習時間は20分である。



この【勉強】と【テスト】は、どちらを、どんな順序で、何回ずつ繰り返すのが、一番学習効率が高いと思う?


それについて考えるために、まずは、認知心理学者のカーピキーとロディガーの行った実験( Karpicke & Roediger, 2008 )を見てみよう。

本書ではこれをカーピキー2008実験と呼ぶ。






■被験者

アメリカの大学生40人。







■学習素材

被験者が【勉強】と【テスト】を行ったのは、次の「スワヒリ単語 ー 英単語」の40ペアである。



たとえば、このリストから、スワヒリ語では、トマトのことを「ニャニャ(nyanya)」、食べ物のことを「チャクラ(chakula)」と言うことがわかる。








■学習方法

【勉強】では、コンピュータスクリーンに、次のように表示された。

左側がスワヒリ語の単語で、右側がその意味を説明する英語である。

被験者は、これを見て、『スワヒリ語のmashuaは、boatという意味なんだな』ということを【勉強】する。


一方、【テスト】では、コンピュータスクリーンに、次のように表示された。


そして、被験者は、キーボードから、左側に表示されたスワヒリ語の意味を入力することが求められた。
この例の場合、「boat」と入力するのが正解である。

入力後に、フィードバック(答え合わせをして、正解を伝えること)が被験者に与えられることはなかった。

「問題だけ解いて、答え合わせはしない」ってこと?

うん。








■学習スケジュールと実験条件

被験者は、「スワヒリ単語 - 英語単語」のペア40個について、【勉強】と【テスト】を、次のスケジュールで行った。

つまり、「【勉強】→【テスト】」のサイクルが、合計4回繰り返された。

ただし、被験者は次の4つのグループに分けられ、それぞれ、【勉強】と【テスト】の条件が異なっている。


※ この記事では、実験条件は《》でくくって表記する。







■《弱点勉強・弱点テスト》グループ

【テスト】が行われるたびに、【テスト】で正解した単語はリストから取り除かれ、以降の【勉強】と【テスト】では、残った単語の【勉強】と【テスト】だけが行われた。


我々日本人が、単語カードで英単語を学習する時、もう覚えた単語のカードは取り除いていき、まだ覚えていない単語だけを集中して学習したりするが、それと同じことをやるわけである。


スマホの英単語学習アプリの多くは、この方式で学習が行われるように作られている。


(スマホアプリ『mikan』の画面より引用)

また、参考書で【勉強】するときも、すでに覚えた章は飛ばして、まだよく覚えていない章を集中して【勉強】するのも、よくやる方法だ。
その時、その章の末尾の確認テストや対応する問題集をやったりするから、これと似たパターンになることが多い。

この惑星上で、最も広く行われている学習方法の1つだろう。










■《全勉強・全テスト》グループ

【テスト】で正解したかどうかに関係なく、全ての【勉強】と【テスト】において、40個全ての単語の【勉強】と【テスト】を行った。


これも、この惑星上で、最もポピュラーな学習法の1つだ。
一般に、「私は、この参考書を4周やった」などと、よく言ったりする。
つまり、最初から最後まで全部を、4回【勉強】するわけである。
その際に、各章の末尾のテストや対応する問題集も毎回律儀にやるなら、これと似たパターンになる。








■《全勉強・弱点テスト》グループ

【テスト】が行われるたびに、【テスト】で正解した単語はリストから取り除かれ、以降の【テスト】では、残った単語の【テスト】だけが行われた。ただし、【勉強】では常に40個全部の単語が【勉強】され続けた。


こういう学習方法をする人は、あまりいないかもしれない。






■《弱点勉強・全テスト》グループ

【テスト】が行われるたびに、【テスト】で正解した単語はリストから取り除かれ、以降の【勉強】では、残った単語の【勉強】だけが行われた。ただし、【テスト】では常に40個全部の単語が【テスト】され続けた。


これも、一般には、あまり見られない学習方法ではないだろうか。









■実験結果

1週間後に、どれだけの単語を覚えているか、計測テストを行った。

それぞれのグループの被験者は、40個の単語のうち何%を覚えていたと思う?




























結果は、こう。



この実験結果から、以下の3つのことがわかる。


(1)【勉強】の反復回数を増やしても、記憶の定着率はほとんど上がらない。

(2)【テスト】の反復回数を増やすと、記憶の定着率は劇的に上がる。

(3)既に【テスト】で正解できた問題でも、その後、繰り返し【テスト】をすると、記憶の定着率は大きく上がる。


よく、反復の重要性を強調する人がいるが、重要なのは、「何」を反復するかだ。

既に覚えたことの【勉強】を反復するのは、めちゃくちゃ非効率である。
既に覚えたことの【テスト】を反復するのは、ものすごく効率が良いのである。


また、学習内容の確認テストをやって満点をとると、「よし、この部分は全部覚えたぞ」と安心してしまって、まだ覚えていない部分ばかり集中して覚えようとする人も多い。
しかし、すでに覚えてしまった内容でも、繰り返し【テスト】すると、【忘れにくさ】が向上するのだ。


それから、【テスト】の直後、フィードバック(答え合わせをして、正解を伝えること)をしていない、という点は、とくに重要である。
我々が問題集を使って学習する時、「問題を解いた後に、答えを見るからこそ、学習効果があるのだ」と、我々は信じているし、実際、フィードバックには学習効果がある。
このため、《全勉強・全テスト》の記憶定着率が高いのは、【テスト】の後に行われた【勉強】がフィードバックの役割をしていて、それによって記憶の定着率が上がったのだと考えたくなる。
ところが、《弱点勉強・全テスト》では、後半、大部分の単語は、【勉強】もせず、答え合わせもせず、ひたすら【テスト】だけが繰り返されたにもかかわらず、《全勉強・全テスト》と記憶定着率は同じだったのだ。

このことから、答え合わせをしなかったとしても、問題を解くこと自体に、劇的な記憶の定着効果があることが分かるのである。



















■主観的な知識習得量

実は、この実験で、「【勉強】→【テスト】」の4サイクルをやった直後、被験者に、1週間後に自分が覚えている単語の個数を予測してもらってあった。

それぞれのグループの被験者は、40個の単語のうち何%を、1週間後に自分が覚えていると予測したと思う?

















被験者の予想は、こうだった。





この事実から、次2つのことが分かる。


(A)反復【テスト】によって記憶の定着率が上がっている被験者は、自分自身ではそのことを自覚できていなかった。
つまり「うわっ。今の【テスト】によって、めちゃめちゃ脳内に記憶が定着されていっている!」という自覚症状はなかった
このため、実際よりも低い記憶定着量を予想してしまった。
結果、実際の記憶定着量は、《弱点勉強・全テスト》の被験者が直感的に感じる記憶の予想定着量よりも、ずっと多くなった。




ようは、反復【テスト】による記憶の定着効果は、やってる本人は自覚できないのである。

少年漫画でよく見かける、「自分がすごく強くなっていることに気づいていない主人公」みたいで、いかにも、物語が始まりそうである。




(B)《弱点勉強・弱点テスト》のように、「既に【テスト】で正解できた問題は、それ以上【勉強】も【テスト】もしなかった被験者」は、既に覚えた単語を、「せっかく覚えたけど、この単語、半分くらいは忘れちゃうだろうな」と考えていたが、その見積もりは甘すぎた
被験者が思っているよりも、かなり速いスピードで、被験者は【勉強】したものを忘れてしまったのだ。
このため、実際よりも高い記憶定着量を予想してしまった。
結果、《弱点勉強・弱点テスト》の被験者は、直感的に感じる定着量より、実際の記憶の定着量の方が、かなり少なくなってしまったのだ。




ちょっと恥ずかしいほど自信過剰なことが分かる。

自信過剰で、やられ役の敵キャラみたいである。


人間には、覚えた学習内容の忘れやすさを過小評価する認知バイアス(思考の錯覚)があるので、自分が覚えたものに対して、自信過剰になってしまうのである。
実際には、あなたが今までに反復【勉強】したものは、あなたが自覚しているよりも、だいぶ少なくしか、あなたは覚えていないのである。



ちなみに、「認知バイアス(思考の錯覚)」という概念をご存じない方は、 この記事 をどうぞ。






















■学習効果が高ければ、それでいいのか?

では、「効果の高い学習方法」さえ続けていれば、それで十分なのだろうか?

たとえば、前述したように、一週間後のテストでは、《全勉強・全テスト》グループは《弱点勉強・全テスト》グループと同じ81%の正解率だった。


この2つのやり方は、同じだけ「効果」はあった。
しかし、「効率」は異なる。
なぜなら、それぞれの被験者グループで、学習にかかった時間が異なるからだ。
学習効率とは、「時間あたりに獲得できた『知識とスキルの質×量』」のことなのだ。


そもそも、多くの人が、弱点だけを集中して勉強するのは、その方法は学習時間が最小限で済むために、学習効率が高いと思っているからである。

実際のところは、どうなのだろうか?
ほんとうに「弱点集中学習」は効率が良いのか?
それとも、これはただの信仰に過ぎないのだろうか?

確かめてみよう。

この実験の【勉強】セッションでは、被験者は、1単語ペアにつき、5秒間の【勉強】時間が与えられた。

【テスト】セッションでは、1単語ペアにつき、8秒以内に回答できなかったら、不正解とみなされた。
すでにすっかり覚えてしまった単語は即座に答えを思いついただろうから、2~3秒もあれば回答できただろうが、まだ覚えていない単語は8秒で時間切れになるまで考えただろう。
したがって、平均して5秒回答にかかったとみなして計算してみる。
すると、学習に要した時間は、【勉強】と【テスト】の試行回数の合計に比例することになる。
なので、《弱点勉強・弱点テスト》条件を100とすると、かかった総学習時間は、それぞれ、次のようになる。


「1週間後に記憶していた単語量」を「総学習時間」で割ると、「時間あたりの学習量」=「学習効率」が出てくる。

そうやって計算した場合、《弱点勉強・弱点テスト》の学習効率を100とすると、それぞれ被験者グループの学習効率は、以下のようになる。


一般に、最も効率が良いと信じられている《弱点勉強・弱点テスト》を100とした場合、《弱点勉強・全テスト》の学習効率は160にもなる。


一見、最も効率が良さそうな《弱点勉強・弱点テスト》よりも、《弱点勉強・全テスト》の方が、遙かに効率が良いのは、なぜだろうか?

原因は、2つある。

1つ目。
《弱点勉強・全テスト》では、既に覚えた単語を学習し続けたため、「オーバーラーニング(overlearning)」による学習効果が発生したからだ。
オーバーラーニングははるか昔から知られている心理現象で、「既に覚えた知識をさらに学習すると、【忘れにくさ】が上がる」というものだ。
地面に打ち込んで、すっかり埋まった杭を、さらにしつこく叩き続けると、より引っこ抜きにくくなるようなイメージだ。
これにより、《弱点勉強・全テスト》の学習効率が劇的に良くなるのだ。

我々は、「既に覚えた単語を、しつこく学習し続けることは、効率が悪い」という認知バイアス(思考の錯覚)を持っている。
しかし、現実には、オーバーラーニングの効果によって知識の定着率が上がるため、それは、効率的な学習法なのである。
つまり、我々は、認知バイアスのせいで、オーバーラーニングという効率的な学習法を、非効率だと錯覚しているわけである。

この実験が特に秀逸なのは、《全勉強・全テスト》、《全勉強・弱点テスト》、《弱点勉強・全テスト》、《弱点勉強・弱点テスト》の4つの条件を比較対象に並べたことで、オーバーラーニング(over learning)の正体がオーバーテスティング(over testing)であることを、見事に暴き出した点だ。
既に覚えた単語の【勉強】を反復するオーバースタディング(over studying)にはほとんど学習効果はなく、既に覚えた単語の【テスト】を反復するオーバーテスティングだけに劇的な学習効果があることが、一目瞭然となったのである。
惚れ惚れするほど鮮やかな実験デザインである。


2つ目。
《弱点勉強・弱点テスト》では、「なかなか覚えられない単語」だけを集中して覚えたが、実は、「なかなか覚えられない単語」というのは、「定着しにくい単語」なのだ。
本書では、これを【難定着知識】と呼んでいる。
【難定着知識】は、脳と相性が悪い。まるで水と油みたいに反発し合っていて、なかなか脳に入らず、入ったとしても、すぐに抜けてしまうのである
このため、「定着しにくい単語」を覚えようとしつこく頑張っても、その努力の多くは実らないし、一時的に覚えたとしても、すぐに忘れてしまうのだ。
それに比べると、《弱点勉強・全テスト》では、「記憶に定着しやすい単語」を反復【テスト】によって確実に記憶に定着させていった。その努力の多くは実り、結果的に、高い学習効率になったのだ。

この実験では、それを分析するためのデータをとっていないので、データによってそれを可視化することができないが、本書で解説している別の実験では、ちゃんとデータをとって可視化し、この現象の分析を行っている。

実は、この【難定着知識】というものの存在も、はっきり認識できていない人をよく見かける。
たいていの人は、どの単語も、記憶への定着しやすさは、そんなに大きくは変わらないと錯覚しているのである。
また、習得するのに時間がかかった単語も、忘れやすさは他の単語とたいして変わらないと思っているのである。

以下は、知識習得のROI(投資効果)を表した表だ。


ROIというのは、要は、「どれだけお得か?」の指標だ。

「重要でかつ定着しやすい知識」は、抜群にROIが高い(=お得)。こういう知識は最優先で学習しなければいけない。
さして重要ではないが、簡単に定着させられる知識は、まあ、学習コストが低いし、覚えちゃっていいだろう。
定着しにくいけど、重要度が高い知識は、まあ、頑張って覚えるしかない。

問題は、「重要度が低いのに、定着しにくい知識」だ。
これは、【不採算知識】だ。
【不採算知識】は、たいして重要でないのに、学習コストだけはやたらと消費するのである。
その知識を得ることによるメリットが、その知識を得るのにかかるコストと見合ってないのである。
会社で言えば、赤字垂れ流しで、リストラ対象の事業や人員である。

【定着容易性】をろくに考えずに学習していると、知らず識らずのうちに【不採算知識】に大量の学習時間を使ってしまい、「重要で、かつ、定着しやすい知識」を学習する時間が足りなくなり、学習効率が下がってしまうのである。

これもまた、典型的な、学習を非効率にする認知バイアスの一つだ。

《弱点勉強・弱点テスト》は、【難定着知識】に学習時間を集中投資する。
だから、計測テストの成績が悪くなるのは当たり前なのだ。

もちろん、実際には、【難定着知識】であっても、重要度の高い知識の学習に時間をかけるのは、必要なことである。

したがって、本書では、「重要度の高い【難定着知識】」には学習時間をかけ、【不採算知識】には学習時間をあまりかけないようにする方法について、書かれている。


























■学習曲線

ここで、被験者たちの学習曲線を見てみよう。
一回でもテストで正解すると、その単語を「学習済み」とカウントする。そして、学習済みの単語数が、どのように増えていったのかを、計測したのだ。

その結果が、以下のグラフだ。


(Karpicke & Roediger, 2008のデータを元に作成)


どの被験者グループも、学習曲線自体は、ほとんど同じであることが分かる。

つまり、知識【習得】率は、全ての実験条件で、違いがないのだ。
違っているのは、忘却率なのである。

穴の空いたバケツにいくら水を入れても、バケツに水はたまらない。
(我々サービス運営者の例で言えば、入会率がいくら高くても、解約率が高いと、ユーザ数は増えていかない)

それと同じように、知識【習得】率がいくら高くても、忘却率が高いと、知識は増えていかないのである。


中長期的な学習効率は、以下の式で決まる。



学習曲線を見て分かるように、実験直後は、「学習で習得した知識量」については、「実際に習得した知識量」と「直感的に習得したと感じられる知識量」は一致していた。


実験直後には、どの被験者グループも100%の単語を【習得】していたし、直感的にも、そのように感じられていただろう。

また、「実際に学習にかかった時間」と「学習にかかったと直感的に感じられる時間」も一致していただろう。


しかし、知識の【保持】率については、「現実の知識【保持】率」と「我々が直感的に予想する知識【保持】率」が大きくズレているのである。


つまり、我々の直感は、知識の【保持】率を誤って認識している
このため、学習効率を誤って認識してしまうのだ。









■学習錯覚

筆者が 錯覚資産本 に書いたように、ほとんどの人間は、「直感的に正しいと思える間違ったこと」を正しいとしか思えない
たいていの人間は、「直感的に正しいと感じられること」を疑ったりはしないし、比較実験をしたり、論文を読んだりして、「自分が正しいと思っていること」が本当に正しいかどうか、いちいち検証したりはしないのである。
「自分が正しいと感じていること」の正しさを疑うことは不快なので、ほとんどの人は、やろうとしないのだ。

このため、我々は、「直感」が正しく機能していない物事に関しては、凄まじく無能になる
その一つが、「学習法」なのである

だから我々は、「直感的に効率が良いと思える、非効率な学習方法」で学習してしまうのだ。

本書では、このような、「効率的な学習を非効率だと感じる認知バイアス」及び「非効率な学習を効率的だと感じる認知バイアス」のことを総称して【学習錯覚】と呼ぶ。











■もう一つの実験条件

この実験に、もう一つ実験条件が加えてあれば、最高だったのにと思う。
それは、《全勉強・ノーテスト》という実験条件だ。



実際、これは、非常にポピュラーな勉強法だ。
こういう風に、反復【テスト】をろくにやらず、反復【勉強】ばかりやっている人は、たくさんいる。
これも、この惑星でもっとも人気のある学習方法の1つだろう。


《全勉強・全テスト》と《弱点勉強・全テスト》では、【勉強】時間が倍ぐらい違うのに、1週間後の記憶【保持】量は同じだった。


また、《全勉強・弱点テスト》の【勉強】時間は、《弱点勉強・弱点テスト》の2倍くらいあるのに、1週間後の記憶【保持】量は3%しか増えてない。


このことから、反復【勉強】が知識【保持】率を増やす効果は、ものすごく小さいと予想される。

したがって、実験結果は、次のようになっていた可能性もありそうである。


反復【勉強】を中心に学習してきた人は、学習スタイルを「弱点【勉強】全【テスト】」に切り替えれば、それこそ、学習効率が2~3倍になっても不思議はなさそうに見える。












■結言

これは、語学の学習に限った話ではない。
数学やスポーツを含めたさまざまな分野の学習において、同様の現象が、実験で確かめられている。
これは、人間の脳神経システムの基本的な性質なのだ。

そして、このように学習効率を左右する要因が、少なくとも、35個ある

やっかいなことに、そのうち、たちの悪い【学習錯覚】を伴うものがけっこうある。
このため、それらの認知バイアスのせいで非効率な学習をしているのに気が付かない人が、たくさんいる。

中学高校大学のとき、人によって、テストの点数に、大きな違いがあった。
もちろん、「才能」や「勉強時間」の違いも大きかった。
才能がある人は、良い成績をとっただろう。
勉強時間が長い人も、良い成績をとっただろう。

しかし、カーピキー2008実験から分かる通り、それ以上に、「自宅での学習方法」の違いが、成績を大きく左右した可能性が高い。
問題集や暗記ペンを使って「弱点【勉強】・全【テスト】」を行った人と、「反復【勉強】」を行った人では、記憶の定着率は劇的に違うからだ。

「弱点【勉強】・全【テスト】」の自宅学習をやっていた人は、「自分は生まれつき頭がいいから、成績がいいのだ」と思っていただろうし、「反復【勉強】」の自宅学習をやっていた人は、「自分は生まれつき頭が悪いから、成績が悪いのだ」と思っていただろうが、実際には、かなりの部分、単に、たまたま選んだ学習法の違いに過ぎなかったというわけである

中学高校大学のとき、我々は、このことを知らなかった。
効率の良い学習法で学習した人も、それが効率が良いということを知っていてそうしたわけではない。
なぜなら、我々には【学習錯覚】という認知バイアスがあるために、効率の良い学習をしていても、していなくても、そのことを実感できないからだ。

つまり、たまたま効率の良い学習法で自宅学習した人は、単に、宝くじにあたっただけなのである。

しかも、そういう差を産む重大要因が、35個もあるのである。

「この35個の要因全てにおいて、たまたま効率の良い学習法で勉強していた」などという確率は、かなーり低くなる。

しかし、今や我々は、「学習法」が大きな違いをもたらすということを知っている。
何より、「ほんとうに」効率の良い学習法を簡単に知ることができる。

つまり、100%当たる宝くじを手に入れられるのだ。

「私はもう中年で、若い人のような学習能力はないから。。」
と思って、新しいことを学ぼうとしない人をよく見かける。

しかし実際は、「普通の宝くじ」しか引けなかった若い頃より、
「100%当たる宝くじ」を引ける今のほうが、はるかに学習能力は高いのである

あなたが今何歳であれ、今こそ、勉強を始めるチャンスなのではないだろうか。


























■具体的な学習方法への落とし込み

この第1巻で紹介したカーピキー2008実験の《弱点勉強・全テスト》のパターンをそのまま実践しても、かなり学習効率が上がると思います。

しかし、複数の論文の知見を組み合わせると、さらにもっと効率が良くなります。

その具体的な方法は、本書の2巻以降で詳しく解説しています。








■「まとめ」について

この論文から得られた知見の「まとめ」は書きません。
なぜかというと、この論文から得られた知見を、そのまま箇条書きにまとめると、それがウソになってしまうからです。

たとえば、この論文だけを読むと、「反復【勉強】は効率が悪い」ということが事実であるかのように見えます。
しかし、それは、この実験条件ではそう見えるというだけの話です。
第2巻以降の論文の実験データと突き合わせると、話はそんなに簡単じゃなく、一行で説明できるような現象ではないことが分かります。









■著者プロフィール

ペンネーム:ふろむだ。
複数の企業を創業。そのうち一社は上場。
数百万人に読まれた分裂勘違い君劇場というブログ(since 2005)の著者。
前著『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』はAmazon1位(心理学)、12万部のベストセラーとなった。












■本書について



■本書の特徴

本書は、単に論文の解説をしているだけではありません。
巻が進むにつれ、論文の知見を、即座に実践できる具体的な学習方法に落とし込んでいきます。

また、第1巻では、「『知識』の時間あたり習得量を上げる方法」のことしか書かれていませんが、本書全体では、『スキル』の時間あたり習得量を上げる方法についても書かれています。
たとえば、数学の問題を解くスキル、英文法の問題を解くスキル、英語の発音、スポーツの技、音楽の演奏テクニックなどのスキルです。











■本書のコンセプト

仮に、50時間かけて学習するなら、あなたは、次のうち、どちらの方が多くの知識・スキルを身につけられると思いますか?


(1)読むのに2時間しかかからない学習法の本で、そこそこ学習効率を高めて、48時間学習する。

(2)読むのに10時間かかる学習法の本で、極限まで学習効率を高めて、40時間学習する。



本書は、(2)のコンセプトで書かれました。

すなわち、「読むのにけっこう時間がかかるけど、残りの人生でそれなりに学習する機会があるのなら、圧倒的に投資効果のいい本」です。

高い学習効率は、一生モノの財産です。
一度、学習効率を高める方法を覚えてしまえば、一生、高い学習効率で学習できます。










■全巻読まないと意味ないの?

本書は、必ずしも5巻全部読まなくても、十分に役立つように書かれています。
1巻だけ読んだ人は1巻分だけ、
1~2巻を読んだ人は2巻分だけ、
1~3巻を読んだ人は3巻分だけの、学習効率に関する知見を得られます。









■対象読者

本書の対象読者は、以下の方になります。


(1)小学生~大学生の子供を持つ親御さん

(2)中学生~大学生

(3)語学や資格試験などの学習をしたい社会人

(4)看護学校生、薬学部性、獣医学部生、歯学部生、医学部生、鍼灸学校生など、医療系の勉強をされている方

(5)仕事でのスキルアップの効率を上げたい人

(6)その他、効率よく学習したい人

本書に大量の図が使われているのは、親御さんがお子さんに本書の内容を解説するときに、使えるようにするためです。
医療系の学習をしている方に向いているのは、解剖学、生理学、病理学などは、記憶の定着効率が上がると勉強が劇的に楽になるからです。








■一般学習法と英語学習法

本書は以下の2つから構成されます。


(1)全ての科目に共通する一般的な学習法

(2)英語の学習法

英語の学習に興味のない方は、(1)の部分だけを読んで、(2)の部分を飛ばしても、十分に役立ちます。

英語の学習効率を上げたい方の場合、この両方の知識が必要です。

また、本書の(2)は(1)の知識を前提として書かれています。
したがって、英語の学習にしか興味のない方が、本書の(1)を読まずに(2)だけ読んでも、本書は理解できません。








■本書の英語学習法の特徴

今どき、英文ライティングはDeepLを使ってやるのが普通です。
そんな時代に「DeepLを使わずに英文ライティングするスキル」を身に着けてなんの意味があるのでしょうか?
エクセルでデータ集計する時代に、そろばんを習うようなものじゃないでしょうか?

機械通訳ソフトの性能もどんどん上がってきています。
このペースで進化し続ければ、英会話スキルなんてなくても、世界中の人と母国語で自由に会話できるのも時間の問題じゃないでしょうか?
そんな時代に英会話スキルを身につけて何の意味があるんでしょうか?

しかし、そういう時代においてなお必要とされる英語力もあります。
むしろ、そういう時代にこそますます必要とされる英語力もあります。

問題は、それが具体的にどのような英語力なのかということです。
具体的にどうやれば、そういう英語力が身につくのかということです。
逆に、どんな英語学習をすると、AIの進化で簡単に陳腐化してしまう英語力しか身につかないのでしょうか?

本書の英語部分は、これらの問いに答えるために書かれました。


また、ここ数年で英語の学習環境が激変しました。
DeepLを始めとする様々な言語ツールの急激な進化によって。

その結果、以下も大きく変わりました。


●最速で英語をスムーズに話せるようになる方法

●最速で英語を楽に聞き取れるようになる方法

●最速で英語をすらすら読めるようになる方法

●最速で英語をどんどん書けるようになる方法

また、以下もだいぶ見えてきました。


●DeepLなどのツール類が進化するに従って無価値になっていく英語力

●DeepLなどのツール類が進化するとますます価値が高まる英語力


たとえば、DeepLの性能がどんどん上がってきていますが、DeepLを単なる翻訳ツールとしてではなく、英語の学習ツールとして十分に使いこなしていますか?
DeepLを使った学習法は、従来の様々な語学学習方法と比較して、効率が悪いのか、同程度なのか、高いのか、高いとすればなぜ高いのか、どれくらい高くなるのか、腰を据えて是々非々で吟味しましたか?
今後さらにDeepLが進化すると、どのような英語力が陳腐化し、どのような英語力がますます重要になるのか、十分に検討しましたか?
DeepLを具体的にどのように使って学習するのが最も効率よく英語学習できるか、あるいは逆に、DeepLをどのように使って学習すると非効率になるのか、十分に吟味しましたか?
DeepLを他の学習ツール(ELSA、オンライン英会話、物書堂、Mouse Dictionary、英辞郎Pro、Weblio、コーパス、etc.)とどう組み合わせるのが最も学習効率が高くなるのか、十分に検討しましたか?
それらを、さまざまな論文・実験から得られた知見や、認知心理学の知見と照らし合わせて、実際の学習効率がどの程度になるのか、十分に吟味しましたか?

これらは、DeepLに限った話じゃありません。


いや、そんなこと言われなくても分かってるし、最新ツールの使い方などいちいちおまえに解説してもらわなくても、SNSに流れてくるネット記事を読んでるから、とっくに知っている。
という方もいらっしゃると思います。

しかし、それだけでは足りないのです。
その理由を説明します。

大砲が登場してしばらくは、それはさほど怖い兵器ではありませんでした。
「こうすれば当たる」という専門家の長年の経験と勘だけで運用していたため、命中率が悪かったからです。
どんなに破壊力が大きくても、当たらなければ怖くありません。
テクノロジーは、人間の経験則だけで運用しているうちは、その本来の威力を十分に発揮できないのです。

ところが、繰り返し大砲を発射してデータを取り、それを元に微分でモデルを作って運用することで、大砲の命中率が飛躍的に上がりました。
それによって、大砲は恐るべき兵器へと進化を遂げました。
テクノロジーはサイエンスに基づいて運用することで、桁外れの威力を発揮するのです。

英語学習ツールというテクノロジーも同じです。
「こうすれば学習効率が高くなる」という人間の経験則だけで運用していると、なかなか学習効率は上がりません。
論文・実験から得られたデータに基づいてモデルを構築したり、認知心理学のさまざまなモデルを駆使してそれらを運用することで、高い学習効率を実現できるのです。
最新の学習ツールを紹介する記事で、この点を十分に考慮しているものはほとんどありません。

本書の英語学習部分は、その点を考慮して書いてあります。









■本書の構成

本書は本編と派生編からなります。
本編は学習法について書かれています。
派生編は、本編に登場した重要なソフトウェアツールなどについて書かれています。

本編は全5巻より構成されます。

第2巻は第1巻の9倍のボリュームです。
第3巻も第1巻の9倍のボリュームです。
第4巻は第1巻の27倍のボリュームです。
第5巻は第1巻の19倍のボリュームです。



以下に、それぞれの巻の概要を示します。

文字数は、±5%程度の誤差がある場合があります。






■第1巻

はじめに

カーピキー2008実験(0.9万字)





■第2巻(7.8万字)

導入編
本書を読むための前提知識等を理解します。
重要な論文1本を読み解きます。

入門編
最重要論文を読み解きながら、科学的学習法の基礎の基礎を理解します。





■第3巻(8.2万字)

リサーチ編第一部
学習効率の鍵を握る知見が書かれている重要論文を読み解きながら、学習効率の理解を深めていきます。





■第4巻(24.6万字)

リサーチ編第二部
第一部の続きです。

英語リサーチ編
英語学習の効率を上げる鍵となる論文を読み解いていきます。

英語ツール編
英語力を増強するソフトウェア&ハードウェアを丁寧に分析します。





■第5巻(16.7万字)

整理編
リサーチ編で説明された、学習効率を決定する要因を整理します。

実践編
論文等から得られた知見を、今すぐに実行可能な、具体的な学習方法に落とし込みます。

英語実践編
論文等から得られた知見を、今すぐに実行可能な、具体的な英語学習方法に落とし込みます。

おわりに
結言です。




派生編の概要については、本編の文中で適宜紹介されていますので、ここでは割愛します。














■目次付きPDF

本書の第2巻以降はPDFで提供されています。
PDFファイルは、パソコンでも、タブレット端末でも、読むことができます。

本書のPDFファイルは、どの巻も、以下のように、サイドバーに目次を表示させることができるように作ってあります。


PDFファイルの目次の表示のさせ方は、ググればでてきます。

パソコンでも、タブレット端末でも、PDFの目次を出せます。

キーワード検索をすることもできます。

また、PDFリーダーアプリによっては、好きなページをブックマークしたり、マーカーを引きながら読むこともできます。










■本書の利用規約

本書は、ひとり親家庭、障碍者手帳保持者、生活保護家庭などの、特定の条件を満たした方には、一定の条件をもとに、無料でご利用いただけます。
詳しくは、 本書の利用規約とその解説 をご覧ください。


https://fromd.hateblo.jp/entry/2020/10/14/034311 に書かれている利用規約だけが、本書の唯一の正しい利用規約です。

本書の第1巻は、KindleやPDFでも配布されており、それらの中にも利用規約は書かれていることがありますが、それらは、内容が古くなっており、正しい利用規約ではないことがあります。

本書の利用規約は、予告なく変更されることがあります。










■たくさんスクロールするのが嫌な人は、本書を買わないで下さい

本書では、以下のキャラクターたちが、論文データを元に、学習ツール・学習アプリ・学習法等の学習効率について、さまざまな議論を行います。


キャラクターの画像サイズを小さくすると、行間を狭くすることができ、文章密度を上げることができます。
しかし、そうすると、キャラクターの画像が見づらくなり、キャラクターの区別がつきにくくなってしまいます

このため、どうしても、キャラクターの画像サイズをある程度大きくせざるを得ず、そのため、行間が大きく空いてしまっています


また、本書では、論文のデータについて議論が行われます。
このとき、データのどの部分についての発言なのかを直感的にわかりやすくするために、以下のような表現が多用されています。
(これは、第3巻からの抜粋です。見た目を確認することが目的なので、内容は理解しなくていいです)


要は、高ガイドだとスキルが定着せず、フェイドガイドだとスキルが定着するってことね。


この表現方法だと、大きな図(マンガのコマのようなもの)が、大量に文の中に埋め込まれます。
Kindle版やPDF版では、大きな図が複数連続すると、「1ページに2つの図が入り切らず、1ページに1つの図しか入らない」ということがよく発生します。
その場合、図の前または後に大きな空白が入ってしまうことが多いです。

これらの理由により、1ページあたりの文字数は少なくなっています

一方で、文章量が少ないわけではないので、ページ数が非常に多くなっています
このため、スクロールするのが、とても大変です

申し訳ありませんが、「そんなにたくさんスクロールしなきゃいけない本は、読みづらいから、読みたくない」という方は、本書を買わないで下さい











■2つの学習効率向上方法

最近では公教育でも取り入れられ始めている学習方法なので、すでにご存じの方も多いと思いますが、従来の学習方法に比べ、「専門家が対象を研究するのと類似した学習活動」は、質の高い学習ができることが分かっています。
ちょうど、最近読書猿氏が書いた『独学大全』という本で、そのことが簡潔にまとめられているので、以下にご紹介します。


学習科学という学問は、生徒が教室で学んだことがなぜ教室の外では使われないのか、どうすれば学校を出た後も役に立つ形で知識を学ぶことができるのか、という問いの答えを探してきた。そうして得られた知見の一つは、正解をただ記憶するよりも、専門家が対象を研究するのと類似した学習活動の方が、学習者はより深い知識を学ぶことである。そしてもう一つ、こうして得られた深い知識は、暗記された表面的な知識のように試験の後に忘れられることなく保持され、また現実世界で活用されやすいことも明らかにされた。(出典: John D.Bransford, Ann L.Brown, Rodney R.Cocking (2000) How People Learn: Brain, Mind, Experience, and School (Expanded Edition), USA: National Academy Press.)
例えば歴史を学ぶ時、出来事の年号や順序を暗記するより、歴史家がするように、史料に当たり仮説を立て議論を戦わせて妥当な推論を組み立てた方が、より深い知識が学べる。(出典: National Center for History in the Schools (1996) National Standards for History in the school (Basic Edition), USA: UCLA Public History Initiative.)


(読書猿『独学大全』P.451より引用)

まさにここが、「学習」の核心です。

現実世界で活用されにくい知識をいくら効率よく身に着けても、そんなものは、本当の意味で効率の良い学習ではありません
現実世界で活用されやすい知識を効率よく身に着けられる学習こそが、本当に効率の良い学習なのです。

ただし、ここで言う「専門家が対象を研究するのと類似した学習活動」は、水泳や空手と同じで、頭でわかっているだけでは、なかなかちゃんと実践できない学習方法です。

そこで、本書は、読者が「専門家が対象を研究するのと類似した学習活動」を疑似体験できるように作ってあります。

つまり、本書は、次の2つの方法で学習効率を向上させる方法を学習できるように書かれています。


(1)論文を読み解きながら「効率の良い学習法」を学習する。

(2)「「論文を読み解いて、本当に効率の良い学習法を見出す」という効率のいい学習法」を学習する。
















■「答えだけ知りたい人」は本書を読まないで下さい

世の中には、次の2つのタイプの人がいます。


(A)答えだけ知りたい人

(B)自分で答えを出せるようになりたい人


本書の対象読者は、(B)の人です。


「答えだけ知りたい人」は、本書の対象読者ではありません。

「なぜ」その学習法の効率がいいかの説明は、手短に済ませてほしい。
その学習法が「本当に」効率がいいかの検証など、いちいちやらないでほしい。
さっさと「効率のいい学習法」の答えだけ、教えてほしい。

そういう人は、本書ではなく、答えだけが書いてある科学的な学習法の本を読んでください

「答え」以外のことを知るのなんて、時間の無駄だろ。

いいえ。

なんで?

学習法は、薬に似ています。

もし、無条件に「この薬は健康にいい」などというものがあったら、それはニセ医療です。
それと同じように、無条件に「この学習法は効率がいい」というのも、多くの場合、ニセ科学です。

ある特定の薬が健康にいいかどうかは、ケースバイケースで異なります。
睡眠に問題のない人が睡眠を改善する薬を飲むと、逆に調子が悪くなったりします。
量が多すぎると翌日の頭の働きが鈍くなりますし、少なすぎると効きません。
昼間に飲んでもダメですし、連続して飲み続けると、効かなくなったり、副作用で逆に眠りを妨げられたりすることもあります。

ある特定の学習法の効率がいいかどうかも、ケースバイケースで異なります。
同じ学習法でも、その学習法を行うタイミング次第で、効率が劇的に良くなったり、劇的に悪くなったりします。
人によっても違います。社会人にとって効率的な学習方法が、中高生にとっては、すごく非効率になることがあります。
中高生が中間・期末試験で高得点をとるのに効率的な学習法と、社会人が数年かけて英語を身につけるのに効率的な学習法も、しばしば異なります。

「健康にいい薬」があるのではありません。
「健康を改善する薬の処方の仕方」があるだけです。

それと同じように、
「効率のいい学習法」があるのではありません。
「学習効率を上げる、学習法の処方の仕方」があるだけなのです。

本書の第3巻以降で議論しているように、学習効率を最大化する学習法の処方箋は、人によって、ライフスタイルによって、時期によって、タイミングによって、習熟度によって、異なります。
だから、処方箋は、その都度、自分で書くしかないのです。

医者からもらった薬を、素人判断で飲むのをやめたり、勝手に量を増やしたりすると、酷いことになることが、よくあります。
学習法も同じです。
本書の第3巻以降で明らかになるように、浅い知識で学習法の処方箋を書くと、学習効率を改善したつもりが、逆に悪化することがよくあります

本書は、「自分や自分の子供のための学習法の正しい処方箋」を自分で書けるようにするための本です。
これは、本質的に、難しいことです。
本質的に難しいことを、本質を損なわずに説明すると、どんなにわかりやすく説明したとしても、読者は、理解するのに、かなりの時間とエネルギーを要します

このため、本書を読むのには、かなりの時間とエネルギーを要します

それでも構わないから、読みたい、という人だけ、本書を買って下さい。
その覚悟がない人は、本書を買わないで下さい


















■本書の入手方法

本書は ふろむだのBOOTH で入手できます。
URLは、以下の通りです。

https://furomuda.booth.pm/










■筆者のその他のコンテンツ

筆者の書いた記事は、筆者のツイッターアカウント( @fromdusktildawn )で告知されます。

筆者の雑多なつぶやきはサブアカウント( @fromdawn )で行います。

筆者のnoteは こちら

筆者のはてなブログの本館は こちら
別館は こちら

筆者が管理人をしているオンラインコミュニティは こちら

筆者の前著は こちら










■参考文献

Karpicke, J.D., & Roediger, H.L. (2008) The Critical Importance of Retrieval for Learning. Science 319, 966













■イラスト等

キャラアイコンと表紙のイラストは、しらたさん( @shiratamadng )の作品です。
それ以外のいらすとやさん調の挿絵は、いらすとやさん( @irasutoya )の作品です。
それ以外のグラフ、図、イラストは、ふろむだの作品です。
表紙デザインの原案は、永田ゆかりさん( @DataVizLabsPath )からいただきました。








■スペシャルサンクス



本書は、構成、エビデンスの用い方、表現方法から、誤字脱字に至るまで、 面白文章力クラブ のみなさんに、非常にたくさんのレビューと添削をしていただいて、出来上がりました。
みなさんのアドバイスにしたがって、何度も構成ごと作り変え、巻数自体が変わってしまっているほどなので、本書は、ある意味、クラブのみなさんとの合作です。
中でも、作家のスゴ本さん( @Dain_sugohon )、科学者のまつむらけいさん( @hjk_sci )、鍼灸学校副校長の内原拓宗さん( @kanshinko )とそのご家族のみなさん、ゲームクリエーターのこよみゆうかさん( @koyomi_yuuka )、コンサルティング会社データビズラボ代表の永田ゆかりさん( @DataVizLabsPath )、正体不明のさとうしおさん、ライターのマチコマキさん、理学療法士の水口翔平さん、起業家で作家の石井遼介さん( @ryouen )、動画クリエイターの星森香さん( @sfmasala )、元アクセンチュアで社長修行中の下山宜昭さん( @NORI_ASSY )、長谷龍一さん( @Rhasese )、本当にありがとうございました。

本書内で、けんすうさん( @kensuu )のアイデアを使わせていただきました。ありがとうございます。

さくさん( @saku420En )には、物書堂の辞書アプリや発音学習アプリに関する素晴らしい情報を教えていただきました。ありがとうございます。
西練馬さん( @nishinerima )には、物書堂やその他の電子辞書に関する重要な知見を教えていただきました。ありがとうございます。


また、ダイヤモンド社の書籍の編集長(第2編集部)の横田大樹さん( @editoryokota )にも、的確なアドバイスをいただき、本書を改良することができました。
本当にありがとうございました。

最後に、本書で引用させていただいた数々の実験を行い、論文を執筆してくださった研究者方々、及び、その実験の前提となる膨大な数の実験と考察を、何十年、何百年と積み重ねてきた数多の科学者の方々に、心からの感謝を捧げます。
本当に、本当に、ありがとうございました。

もちろん、文責はすべて筆者のふろむだにありますので、本書に関してなにか問題があれば、すべてふろむだ( @fromdusktildawn )の責任です。















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