氷河期の猛吹雪にズダボロに引き裂かれた人々と、グングン成長した人たち


氷河期*1の猛吹雪の中にいたのはid:repon氏やid:sync_sync氏などのように氷河に人生を押しつぶされた人たちだけではない。
id:dankogai氏、id:muffdiving氏、id:naoya氏、id:jkondo氏、そして僕自身も氷河期をくぐり抜けた。


過酷な時代だった。
それまで倒産するはずがないと信じられてきた銀行が倒産したことで、銀行が銀行を信用しなくなり、信用収縮が起きてインターバンク取引が滞りまくった。経済の血液がながれなくなり、心筋梗塞の症状を呈し始めた。
問題は金融システムなのに、なぜか小渕内閣は見当違いな景気対策に税金を湯水のごとくつぎ込み、経済はたいして回復しないまま膨大な借金の山だけが残った。


つまり、この氷河期は単なる不運ではなく、人災だった。
「誰の責任でもない」というのは嘘だ。
この惨劇の責任を負うべき人たちは、たしかにいる。*2


金融という血液の流れが滞ってしまった経済はどんどん冷えていき、いたるところで企業の財政状況が悲鳴を上げていた。
大企業も例外ではなかった。


氷河期の猛吹雪はぼくの職場をも襲った。
ぼくも上司に遠回しにサービス残業をしろと言われた。
「サービス残業なんかまっぴらごめんです!」と一蹴した。


日本経済全体が収縮してパイが減りまくっていたので、誰かが生き残るためには、だれかがババを引かなきゃならなかった。
僕はババを引くのなんてまっぴらごめんだったし、その頃のボクは単なる一兵卒で、上司を含めた全員を幸せにする方法(win-win構造を作り出す)など知らなかったから、単にババを上司に押しつけた。(=サービス残業しなかった)
しわ寄せは(プロジェクトの利益減という形で)上司に行き、上司のボーナスは減り、上司の顔はますます憔悴していった。ボクは上司がまっとうな単価で仕事を取ってこないのが悪いんだ、ぐらいに思っていた。実際にはひどい不況だからそんなのぜんぜん無理なんだが、そんなこと一兵卒の知ったことではなかった。上司に同情はしたが、同情しかしなかった。*3


おそらく、id:dankogai氏、id:muffdiving氏、id:naoya氏、id:jkondo氏もなんだかんだで、要領よくババをかわしたのだろうと想像する。
もしくは、その後の僕のようにババのないゲームを見つけて、乗り換えただろう。
そして、要領の悪いid:repon氏とid:sync_sync氏は上司からババを押しつけられ、ズダボロになった。


氷河期のど真ん中でも、ババのないゲームはけっこうあった。
禍々しい氷柱の垂れ下がる洞窟の向こうには氷河期と思えないようなお花畑がけっこうあった。


あの猛吹雪の時代、全員が助かる方法はなかった。
多くの人間の人生が破壊されるのは、愚かな政策の必然的帰結だった。
id:repon氏やid:sync_sync氏の人生がグロテスクなまでにグチャグチャにされたのもそのプロセスの一環だった。
だから、そうして傷ついた人々を「自己責任だ」と切り捨てて放置するのには、僕は異論がある。
なんらかの形で「社会的」に救済する必要があると、僕は思っている。
政策の犠牲者は、政策で救うのがスジだろう。


しかし一方で、猛吹雪の中でも自分だけが助かる方法など探せばいくらでもあったというのも事実だ。。。。id:dankogai氏、id:muffdiving氏、id:naoya氏、id:jkondo氏のような要領のよい人間たちにとっては。


だから、id:sync_sync氏が「時代が悪かったのか、僕が悪かったのか、教えて!ダンコーガイ!」と呼べば、ムキムキマッチョのダンコーガイが「やりかたなどいくらでもあった」と答えるのは当然だ。


これはダンコーガイが非人道的だからではないんだ。ダンコーガイに悪意はない。
マッチョマンに尋ねればマッチョな答えしか返ってこない、という、それだけの話なんだ。
ダンコーガイは頭も体もマッチョなんだ。100%pureマッチョなんだよ。


マッチョというのはどんなに苦しい状況だって泣き言なんて絶対に言わない生き物なんだ。
死屍累々阿鼻叫喚の地獄からでも、なにごともなかったように生還するクールなタフガイなんだ。
そういう美意識を持っている。片腕がサイコガンになってるスペースコブラみたいな陽気なムキムキガイなんだ。
誰もが「もうダメぽ」「万策尽きた」と絶望するとき、そこから脱出する方法を3つも4つも思いついちゃうような機転の利くイケてるヒーローなんだ。


id:repon氏やid:sync_sync氏が「自分はわるくなかった理由」を10個考え出している間に、「その状況から抜け出す具体策」を10個考え出す生き物がマッチョなんだ。


マッチョは、とにかく目の前の具体的問題を解決することを優先する。誰が悪かったかなんて、あとから考えるんだ。矢が刺さって、血がどくどく流れているのに、誰が矢を放ったかを議論している場合じゃない。とにかく矢を抜いて止血するのが先だと考えるんだ。「ボクは悪くなかった。時代が悪かった。」そりゃそうかもしれないが、それよりも先に考えることがあるだろう?と考えるのがマッチョ。


マッチョは愚痴なんか言わない。だから、マッチョは女の子にモテる。
会社で上司にババを押しつけられ、ズタズタにされ、ボロボロになって愚痴をこぼすid:reponを見てid:reponの彼女が幻滅しまくっているころ、深手を負いながらも「こんなのへっちゃらさ」と空元気をみせつつ四面楚歌の窮地を鮮やかに切り抜けちゃうマッチョなダンコーガイをみて、周囲の女の子たちはその男らしさに惚れ直し、あこがれで瞳をうるうるさせちゃうんだ。中には股間を濡ら(ry<自粛>*4


マッチョたちの多くは、自分を他の人間と同じ種類の生物と考えているようだが、それは並のストリートファイターが範馬勇次郎を同じ種類の生き物だと考えるくらい見当違いだ。


だから、「教えて!ダンコーガイ!」という召還呪文は、自分もマッチョになりたい人が、どうやったらマッチョになれるのかを教えて欲しいときだけにしか唱えちゃだめなんだよ。
ボロボロになってしまって立ち上がる気力もないときにその召還呪文を唱えようものなら、マジ死ねるアドバイスが降ってくるだけだよ。


いまのid:repon氏とid:sync_sync氏は、とてもじゃないが、あの最強マッチョマンの召還呪文を唱えていい状態じゃない。
まずはゆっくり休養し、気力と体力が十分に回復して、自分もマッチョを目指す決心がついたなら、そのとき改めて「教えて!ダンコーガイ!」という呪文を唱えればいい。




最後に、ここのところ評判の悪いマッチョたちの言い分の背景を説明して、誤解を解いておく。


そもそも氷河期ですら、あるところには良質の雇用がけっこうあった。
目端の利くマッチョたちはそれを見つけて肥え太った。


現在に至っては、良質の雇用はもはやあふれかえっていると言っていい状態だ。
これらの良質の雇用を満たすように行動すれば、ゼロサムゲームではなく、全体のパイが膨らんで、全員が幸せになれるwin-win構造、ポジティブサムゲームとなる。


たとえば、全国平均の事務職の求人倍率は0.21倍。5人に一人しか採用されない猛吹雪だ。
しかし、東京の情報処理技術者の求人倍率は5.8倍だ。平均年収も事務職よりはるかに高い。
良質の雇用は、有り余っているんだよ。


トヨタの自動車には80個ものマイクロプロセッサが組み込まれ、合計700万行のソースコードが使われている。
ソニーの携帯電話には、500万行のソースコードだ。
JRの改札口だって、原子炉だって、ダムの制御だって、自販機だって、建築設計支援システムだって、ありとあらゆるものが膨大なソースコードの塊になっている。
最近の戦闘機など、もはやコンピュータの固まりに周辺機器をつけて空を飛ばしているようなものだ。


そして、ますます高度化していく乗り物や家電の付加価値のかなりの部分がソフトウェアだ。
今後ますますソフトウェア技術者が必要だ。


トヨタ自動車では1万人のプログラマーが働いているが、あと1万人足りないと言う。
そして、自動車や家電だけではなく、ありとあらゆるモノやサービスがますます情報化されていく。
ますます多くの雇用が生み出されていくだろう。*5


これだけ需給バランスが崩れていれば、有能なソフトウェアエンジニアやプロジェクトマネージャは、相当強気に出られるのではないだろうか。
「待遇が悪い。さっさと待遇改善しないと、転職するぞ。」と脅せば、課長も部長も顔色が真っ青になる。
とくに、有能なエンジニア同士、横で連絡を取りながら結束してやれば最強。
現場の主戦力にごっそり抜けられたら、組織崩壊の危機となる。会社側は震え上がるだろう。


労働組合など時代遅れだ。労働者のストライキなど絶望的に時代遅れの闘争手段なのだ。
現代では、現場の主戦力となっている有能なエンジニアたちの集団転職の方がはるかに、会社を恐怖のどん底に突き落とすリーサルウェポンなのだ。
企業より労働者の立場の方が弱いというのは、あくまで一般論でしかないどころか、一般論としてすら怪しいんだ。


だから、マッチョたちは企業など恐れていない。
むしろ、企業の方がマッチョたちの顔色をうかがいながら経営しなければならない時代なのだ。


もちろん、これはIT技術者の世界を例として挙げたに過ぎない。
たとえば海外に目を向けてもいい。BRICs、VISTA、労働市場自由化で急成長中の統合ヨーロッパ。
別産業に生息する目端の利くマッチョたちは、その鋭い嗅覚でまだまだ隠されたお花畑があるのをかぎつけ、いまこの瞬間もおいしい汁を吸ってますます肥え太っていることだろう。


傷ついてズダボロになったid:sync_syncid:reponには休養が必要だが、
まだ健康で十分な余力のある若者たちは、マッチョたちの指し示す方角に目を向け、自分をマッチョに鍛え上げる道を進むという選択肢もある。


そしてダンコーガイは単にマッチョであるだけでなく、ハードボイルドでもある。
「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない。」というのがハードボイルドの美意識だ。
礼儀をもってダンコーガイに教えを請えば、マッチョになる方法を気前よく指南してくれることだろう。


それはともかく。。。マッチョじゃなきゃ豊かに生きていけない社会って、なんだかバイオレンスジャックの関東地獄地震後の弱肉強食ワールドみたいでウンザリではありますね。
マッチョじゃなくてもそこそこ幸せに生きていける社会を作っていきたいものです。

*1:ここでは、日本の深刻な景気の冷え込みの時期に過酷な労働やサービス残業を強制されたり上司からパワハラを受けた平社員の世代という広い意味でとっている。その時期に失職したり、転職したりした若い人も含む。この時期に既に大企業などで既得権益を確保して安全地帯にいたそれより上の世代は除く。子飼弾氏は1969年生まれで、この時期に正社員の既得権益など持ってはいなかった。

*2:当然、氷河期の最大の加害者は、第一義的には政府か、もしくはそういう政治家に投票した当時の有権者たちだろう。少なくとも、小飼弾氏を加害者呼ばわりするのはお門違いだ。

*3:僕の言い分としては、僕がバリバリ仕事をこなしたからこそ上司はメシが食えたという側面もある。僕がたくさんの利益を稼ぎ出し、上司が潤ったこともたくさんあったのだから、プロジェクト収支が少々苦しくなったぐらいで僕がサービス残業で辻褄を合わさなければならない義理などないと思っていた。それと、自分より弱い立場の人間を食い物にしてはいけないが、自分より強い立場にある企業や管理職は、食うか食われるかという状況なら食ってもかまわない、というのが当時のボクの倫理観だった。

*4:ついでに女性のマッチョの例を挙げておくと、風と共に去りぬのスカーレットオハラはおもっくそマッチョだね。大聖堂のアリエナもマッチョだな。

*5:このまま日本人がその雇用を十分に満たすことができなければ、日本企業は人材不足が原因で開発拠点をインドに移さざるを得なくなってしまうかもしれないが。